松井研究室

松井 俊浩 教授

松井 俊浩 教授

プロフィール:
1980年東京大学工学部計数工学科卒業、1982年東京大学大学院情報工学専門課程修士修了、1990年同大学院工学博士、1982年通商産業省工業技術院電子技術総合研究所に入所、知能ロボットのためのオブジェクト指向プログラム言語による幾何モデルを用いた動作計画等の研究。1991年~1999年米国スタンフォード大学、MIT、オーストラリア国立大学の客員研究員。2001年産業技術総合研究所企画本部、2003年産総研デジタルヒューマン研究センターにて分散型実時間計算システムの研究。2007年産総研副研究統括、2012年セキュアシステム研究部門長、2015年NEDO技術戦略研究センター電子情報機械システムユニット長。日本ロボット学会、計測自動制御学会等の論文賞等十数件。日本ロボット学会フェロー、情報セキュリティスペシャリスト、エンベディッドシステムスペシャリスト。2016年より、情報セキュリティ大学院大学教授、IoTとAIのセキュリティの研究に従事。著書に、KE養成講座AI入門(オーム社、1989年)、ロボットフロンティアシリーズ・デジタルヒューマン技術(岩波書店、2004年)、IT-Text組込システム-ロボット制御(情報処理学会、2006年)、AI白書-次世代AIインフラストラクチャハードウェア(IPA、2017年)などがある。岐阜県生まれ、茨城県つくば市および横浜市在住。趣味は、自転車づくり、サイクリング、アマチュア無線、サーバー管理、電子工作など。

Q:松井研究室での現在の主な研究テーマはどのようなものですか?
 IoTとAIのセキュリティを対象にしています.コンピュータが小型化し,どこでもインターネットが使える環境ができたので,さまざまな機器がマイコンで制御され,ワイヤレスでインターネットにつながるIoTが進展しています.これまで単体で動作していた機器が,ネットワーク化されたため,外部からの侵入が可能になり,セキュリティ問題が拡大しています.物が盗難され,内部を解析されてすり替えられるような物理的なセキュリティ問題も深刻です.ものづくり産業が健全に発展するために必須となるIoTのセキュリティを研究しています.
 もう一つの新しいセキュリティ問題として,AI,特にディープラーニングのセキュリティを研究しています.最近のAIは,特に認識タスクにおいて,人間を上回るパフォーマンスを示しています.しかし,入力信号(画像)にわずかの揺らぎを与えることで,高確率で誤った認識をさせられる敵対的サンプル攻撃が発見されました.入力信号をフィルタしたり変換を加えることで,この攻撃を検出する技術を開発しています.

Q:松井研究室に在籍されている学生の皆さんやOBOGはどのような方々ですか。進学のきっかけや修了後の状況等について教えてください。
 通信関係の企業から派遣される学生は,IoTセキュリティに対して,IoTのユーザーとして,通信からアプローチする研究をしています.やはり,IoTにおいて新しく生じる脅威に敏感です.官庁系では,警視庁や海上保安庁からの学生は,現時点でのセキュリティ問題だけでなく,これから生じてくる可能性のある新しい脅威,たとえば自動運転車と同様に船舶が自動操船されるようになったらどのような脅威が発生するか,またIoTにおける脆弱性の発見傾向から何が予測されるかなどを研究しています.みなさん,派遣元におけるセキュリティの向上に関心が高く,熱心に研究されてきました.
 学部を卒業した就職前の学生は,卒論でのAI研究をさらに発展させたり,IoTにおけるリアルタイム処理に興味を持ったり,ワイヤレス通信に関心があったりとさまざまです.一人は,セキュリティ関連の企業に就職が決まりました.

Q:これまでに指導された学生の皆さんの研究テーマについて教えてください。
 博士後期の学生の一人は,AIに対する敵対的サンプル攻撃の検出と対策を研究しました.ベトナムからの留学生が,3年間研究し,国際誌や国際会議に4件の論文を発表しました.日本人の修士課程学生とも協力しています.その研究とは,敵対的攻撃の対策へのさらに次の攻撃を考案することです.この領域は,世界中で多くの攻撃と対策が研究されているホットな研究テーマです.
 リアルタイムOSへのネットワーク飽和攻撃の影響の評価の研究は,IoTらしい研究でしょう.リアルタイムOSにはさまざまな種類があるので,継続を研究する予定です.無人操船システムのセキュリティの研究は,船舶などの大きな装置もthing ですから, IoTデバイスでもあります.IoTで重要となる「安全(safety)」を階層的に守るためにセキュリティ機能のゾーニングを検討しました.IoTのセキュリティ脅威は,デバイスやソフトウェアに残存する脆弱性に強く影響されます.公開されている脆弱性データベースからどのような傾向が読み取れるかを研究しました.深刻度の高い脆弱性が狙われると考えがちですが,むしろ,さまざまな脆弱性が幅広く狙われる傾向が見られます.
 さらに,信号強度(RSSI)を用いて信号源を探索する効率的な方法,Webサイトの巡回履歴からの悪性アクセスの検出などの研究があります.

Q:松井研究室ではどのような教育をされていますか。ゼミ、研究室ミーティングや個別指導等のスタイルについて教えてください。
 毎週火曜日は,橋本研究室と合同のゼミを開催しています.最初のゼミでは,先生が,研究とは何か,どうやって進めるべきかを講義します.次回から,当番となる2年生の学生が,30分ずつ,関心のある領域の論文を調べ,自分の考えを述べ,みんなで議論します.次第に1年生も混じって発表するようになります.自分の研究を固めていく過程であると共に,他の学生が調べたこと,考えていることを聞いて知識を広げる機会です.研究では,新規性が重要です.このゼミで語られることは,世界で誰も考えていない,最先端の内容です.半期で4-5回の発表チャンスがあります. 月末の火曜日のゼミは,AI特集のゼミです.大塚研とも合同で,AI関係の研究発表をして批評し合います.最近は,AIのセキュリティだけでなく,AIを使ってセキュリティを高める技術の開発がさかんです.共通の課題を検討します.
 隔週で,火曜日の6限には,松井研,橋本研,大久保研のSDゼミ合同でトップカンファレンス論文輪読会を開催しています. セキュリティ分野の著名な国際会議学会で発表された論文を一人1編ずつ担当して読みこなし,その内容と評価を15分くらいで発表します.優秀な論文を読むことで,論文を読む力と, 書く力の両方が鍛えられます.広い領域の知識を得る機会でもあります.
 いずれのゼミでも,先生は突っ込んだ質問や批評をします.発表には,質疑応答の力も重要です.これで鍛えておけば,修士論文の発表や学会発表に自信を持って臨めるでしょう.
 研究室ゼミと並んで,個別の研究指導は非常に重要です.松井研では,先生のカレンダーを見て,空いている時間はどこでも面談を申し込めます.やり方は,やったことやアイデアを1枚の紙に書いて先生と1時間程度の面談をします.初期のテーマ出しの段階では,ほとんど雑談のようにいろいろな話をします.だんだんと絞られてくると,読むべき論文や資料を提供して一緒に検討します.研究の途中では,2週間に一度くらいずつ,その進捗を報告してもらい,最後に発表の練習をします.個人面談は,学生の申し込みベースです.頻繁に面談をするほど,研究が捗ります.現在は,zoom を使った遠隔面談を実施しています.

Q:どんな経験や関心を持つ学生に進学してほしいですか?
 問題の解法を考えるには,なぜ,なぜと10回繰り返すと良いと言われます.セキュリティの問題について,どうやって監視をくぐりどこから侵入できたのだろう,そのためにどういう情報がネットワークで通信されているのだろう,通信のためにコンピュータの内部で何が起こっているのだろうというように,どんどん掘り下げる考え方ができると,問題の本質に迫れるでしょう.
 欲を言えば,仲間たちを研究の議論に引き込むるコミュニケーション力もあれば,万全です.企業等での実務経験がある学生は,問題の重要性をよくご存じですから,モチベーションも十分で,有利なのは間違いありません.しかし,考えが経験の周囲で止まってしまう傾向も見られます.そういうとき,若い学生と議論できると,両方が一段飛躍できます.

Q:松井研究室に興味を持っている方へ向けてメッセージをお願いします。
 「松井研で研究できて本当に良かったです」と卒業生が言ってくれたときは,こちらも本当にうれしくなりました.短い時間でしたが,彼は私の時間を使い倒してくれました.3密が憚られる時節ですが,濃密な研究議論ができることを期待しています.
 1月に次のような著書を出版しました.関心を持っていただけると幸いです.

松井・橋本研究室合同での箱根合宿
松井・橋本研究室合同での箱根合宿

著書