シラバス
組織行動と情報セキュリティ(後期2単位)
客員教授 周佐 喜和
1.授業のねらい
組織は、本来、共通目標を達成するために合理的に設計されたものである。そして、組織成員も、目標達成のために合理的な意思決定を行う意欲(意志)を持っている。しかし、それにも関わらず、組織の中では目標からの逸脱行為が行われるのが多々見られる。これは、個人(あるいは個人の集合としての組織)の合理性の限界のためである。合理性に限界を持つ個人が集まると、個人の枠を越えた力が作用し、判断や行動を歪めることも起きる。ここから、不正行動や社会的逸脱行為も起きてくると考えられる。
このように、組織の中の人間行動という側面から、現実の組織の問題を考える視点を身に付けるのが、本講義の目標である。
2.到達目標
- 組織の中の人間行動が、意識的・無意識的に他者からの影響を受けていることを理解し、人に説明できるようになる。
- 組織の中で他者からの影響を受けることで、好ましくない結果が生じるプロセスについて理解し、人に説明できるようになる。
- 合理性に限界のある人間を前提にした場合に、リスクや不祥事に対処する組織設計がどのようになるのかを理解し、人に説明できるようになる。
3.授業計画と開講形態
開講形態は別途通知。
授業では、まず、合理性に限界のある人間行動がどのような性質を持っているのか、そして組織の中で他者の影響をどのように受け、その結果何が起きるのかということを説明する。次いで、好ましい結果をもたらさない組織をどのように変革していけばよいのかについて、検討を加える。可能であれば、現実の組織における事例も盛り込みたいと考えている。
- 組織の定義と組織行動論の枠組み
- モチベーションと組織への貢献
- 組織コミットメントと組織の成果
- 集団のダイナミクス
- リーダーシップの役割
- 組織文化の概念と機能
- 組織文化の形成と変革
- 組織学習:不完全な組織学習をもたらす要因
- 意思決定のバイアス(1) :直観的な意思決定の持つ性質
- 意思決定のバイアス(2) :リスクの認知・選好のバイアス
- コンフリクトマネジメント
- 予見可能な危機への対応
- 危機管理と組織
- 高信頼性組織と組織倫理
- 組織変革の立案と策定
4.教科書
特に指定しない。講義資料を事前に公開する予定。
5.参考書・参考論文
組織行動論に関する基礎的な解説書としては、以下のものがある。
- 桑田耕太郎・田尾雅夫『組織論』有斐閣、1998年
- 金井壽宏・高橋潔『組織行動の考え方』東洋経済新報社、2004年
- 長瀬勝彦『意思決定のマネジメント』東洋経済新報社、2008年
また、組織がセキュリティや危機の認識を何故誤るのかに関しては、以下の文献を参照されたい。
- ベイザーマン・ムーア(長瀬勝彦訳)『行動的意思決定論:バイアスの罠』白桃書房、2011年
- ベイザーマン・ワトキンス(奥村哲史訳)『予測できた危機をなぜ防げなかったのか?:組織・リーダーが克服すべき3つの障壁』東洋経済新報社、2011年
- 谷口勇仁『企業事故の発生メカニズム:「手続きの神話化」が事故を引き起こす』白桃書房、2012年
- ベイザーマン・テンブランセル(池村千秋訳)『倫理の死角:なぜ人と企業は判断を誤るのか』NTT出版、2013年
6.関連科目
組織行動論は経営学の一つの分野であり、心理学(一部は社会学)が基礎になっている学問分野である。ただし、本講義では、この分野の基礎がない学生でも理解できるよう配慮するつもりである。
7.成績評価の方法
出席状況、受講態度、レポート等の結果を総合的に判断し、評価する。
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